小さな不迷惑
ところがサラリーマンは
そんなやりとりの後でわたしも電車に乗る。運良くドアのすぐ横の三人席の真ん中が空いているのを見つけた。ドア側に座っているサラリーマンが、アタッシュケースを座席の上に置いているけれど、わたしが座れるくらいのスペースはあったので、腰掛けようと近づいた。すると、サラリーマンがちょっと居住まいを正しながら横に置いたカバンに手をかける。ほとんど同時にわたしは半分くらい腰掛ける。彼が座席の上からカバンをどかしてくれたら、お礼を言って深く座り直すつもりだった。
ところがサラリーマンは、「あ、いいのね」という感じですぐに手を戻してしまって、カバンはそのまま。それでもちゃんと座れたかもしれないけれど、無理矢理になったり嫌味になるのもいやで、わたしは半座りのまま動けなくなってしまったmask house。
どうしてどかしてくれなかったんだろう? そもそもどうして座席にカバンを置いてるんだろう? 横に倒したら困るものでも入ってるのかしら? いろんな疑問が湧いてきて、その状況を娘にLINEしたいと思ったのだけど、自分が前に出ている分、後方にいるサラリーマンから画面を覗かれる可能性が高くてスマホを出す気にもなれない。リラックスもできない紐西蘭奶粉。
それでもまあ、立っているよりはずっと楽だなと思いながら、暇なのでいろいろ考える。もしも、「隣りのサラリーマンが座席にカバンを置いていててさ……」ということをすぐに娘にLINEしていたら、それは、ひとことでいえば「ムカツクー」という印象の内容になっていただろう。でも、実際には「あれ?」と思っただけで、イライラというほどではない。ということは、世の中に飛び交ってる「ムカツクー」の中身も、大半はそれほど苛立っているわけじゃないのかな。つい、トゲトゲした感情を先に受け取ってしまいがちだけど、実はただの状況説明なのかもしれない。
「カバンをどかそうと思ったらそのままで座ってきた。なんで中途半端に座ったのこのおばさん」とか、後ろでツイートされてたかな。3つ目くらいの駅でサラリーマンはカバンと共に降りて行ったので、わたしはゆったりと座り直した。